英語ができるだけでは、グローバルでは勝てない。
成果を生む人に共通する「EQ」という力

EQとは、まず自分自身の感情を理解し、その感情が自分の判断や行動にどのような影響を与えているのかを認識する力です。そして同時に、相手の感情や置かれている状況を理解し、そのうえでより良い関係性やコミュニケーションにつなげていく力でもあります。グローバル人材の要件として語られるのは英語力であることが多いのですが、実際の現場で成果を分けているのは、英語力そのものよりも、この力の有無であることが少なくありません。
この記事では、EQとは何かという定義から、英語力だけでは測れない理由、そして人事担当者がEQをどのように見極め、どのように育てればよいのかまでを、私自身の考えとしてお伝えします。
この記事で考えること
- EQの定義と本質
- 英語力だけでは成果が出ない理由
- 英語力と成果を生み出す力の違い
- EQの見極め方の3視点
- EQは後天的に高められる
- EQ研修が成果に結びつかない原因
- 育成の第一歩は自社のグローバル人材像の再定義
- EQは英語力を成果につなげる土台
EQとは何か。自分と相手の感情を理解し、行動を選択する力
EQとは、自分と相手それぞれの感情を理解したうえで、より良い関係性と成果のために、どう行動するかを選択する力です。私はEQをそのように捉えています。感情を「感じ取る」ところで終わるのではなく、「どう行動するか」を選ぶところまでを含むという点が重要です。
ここで誤解されやすいのは、EQが高い人とは「空気が読める人」だという捉え方です。私はそうは考えていません。大切なのは、空気を読むことにとどまらず、その場で何が起きているのかを理解し、自分の感情もコントロールしながら、適切な行動を選択できることです。
例えば、相手が怒っていることに気づくだけではEQとは言えません。なぜ相手は怒っているのか、そして自分は今どのような感情になっているのかを理解し、その状況でどう対話すれば信頼関係を維持し、さらに発展させられるのかを考え、行動に移す。そこまで含めてEQだと思っています。
また、EQは「相手に合わせる力」でもありません。相手の感情を尊重することと、相手の言うことをすべて受け入れることは別です。だからこそビジネスにおけるEQは、感じの良い人になるための能力ではなく、信頼関係を築き、人を動かし、成果を生み出すための実践的な能力だと考えています。
英語が流暢でも成果が出ないのはなぜか
英語力の高い人材が現場でつまずくとき、そこには共通した構図があります。会議などの場で、相手の感情、相手の文化的背景、意思決定のプロセス、コミュニケーションのスタイル。こうした違いを理解しないまま、ただ言葉だけで自分の主張を通そうとすると、対立が生まれやすくなるのです。
英語が非常に流暢でも、相手の話を聞かず、自分の意見ばかりを主張してしまう人が、必ずしもグローバルで成果を出せるとは限りません。一方で、英語が完璧ではなくても、相手に関心を持ち、分からないことを質問し、相手の立場を理解しようとしながら自分の考えを伝えられる人は、周囲から信頼され、結果としてビジネスを前に進めることができます。
実際のグローバルビジネスで求められているのは、英語が上手であること以上に、相手の意図を理解し、自分の考えを伝え、異なる価値観を持つ人と信頼関係を築きながら物事を前に進める力です。英語力は出発点ではありますが、それだけで成果が決まるわけではありません。
「英語力」と「英語を使って成果を生み出す力」は違う
私が人事の方にお伝えしたいのは、英語力を測ることと、グローバル人材としての力を測ることは同じではない、ということです。
TOEICのスコアは、英語をどの程度理解できるかを見るうえで非常に有用な指標です。ただ、それだけで「海外で活躍できる人材か」を判断するのは難しいと思います。人事の方が見落としやすいのは、「英語力」という能力と、「英語を使って成果を生み出す力」を分けて考えることではないでしょうか。
英語が話せることは、グローバルビジネスの入口です。しかし、その先で本当に問われるのは、異なる文化や価値観を持つ人と信頼関係を築き、相手を理解し、自分の考えを伝え、周囲を巻き込みながら成果を生み出す力です。選抜基準がスコアだけになっているとすれば、入口の力しか測れていないことになります。
EQをどう見極めるか。面接と日常で見るべき3つの視点
EQは点数だけで判断するのではなく、実際の行動を見ることが重要です。私が面接や日常のコミュニケーションで特に見たいのは、次の3点です。
1. 自分自身を客観的に見られるか
「自分はこう思う」だけではなく、「自分は今、なぜそう感じているのか」「自分の言動が相手にどう受け取られているのか」を振り返ることができるか。自己認識は、EQのすべての出発点になります。
2. 相手への関心があるか
相手の話を聞いているか、分からないことを質問するか、自分と異なる意見に対してすぐに否定せず、まず理解しようとするか。これは非常に重要です。関心のないところに、理解も信頼も生まれません。
3. 感情に振り回されずに行動を選択できるか
例えば、厳しいフィードバックを受けたときに防御的になってしまうのか、それとも一度受け止めて、「何が起きているのか」を考えられるのか。ここに、その人のEQがよく表れます。
あわせて大切なのが、「相手に合わせること」と「相手を理解すること」を混同しないことです。EQが高い人は、単に誰にでも感じよく接する人ではありません。必要なときには異なる意見も伝えます。ただし、相手を尊重しながら、どう伝えれば建設的な対話になるのかを考えることができます。
ですからEQを見るときには、「この人は感じがいいか」ではなく、「異なる考え方の人と出会ったとき、この人はどう反応するか」を見ることが大切だと思います。採用や選抜の際には、何点取ったかだけではなく、「この人は、異なる価値観を持つ人と一緒になったとき、どのように関係を築き、どのように成果につなげるのか」という視点をぜひ持っていただきたいと思います。
EQは後から高められるのか
EQは、学習や訓練によって高められると考えています。ただし、EQに関する知識を研修で学んだからといって、それだけでEQが高まるわけではありません。
「相手の話をよく聴きましょう」「相手の立場に立って考えましょう」と教わること自体は簡単です。しかし、実際に自分と意見が合わない相手を目の前にしたとき、感情的にならずに話を聴けるかというと、これは別の話です。EQは、「知っている」から「できる」、そして「自然にできる」へと変えていく必要がある能力だと思っています。
そのために私が特に重要だと考えているのが、実践、フィードバック、内省、再実践というサイクルです。研修で「相手の話を聴く」ことを学んだら、実際の会議や1on1で試してみる。そして上司や同僚から「今日は相手の話を最後まで聴けていた」「ここでは少し自分の結論を急いでいた」といった具体的なフィードバックを受ける。その経験を自分自身で振り返り、次の場面でまた試してみる。この繰り返しによって、EQは少しずつ行動として身についていきます。
ですから企業がEQを高めたいのであれば、研修を単発のイベントにしないことが非常に重要です。知識を与えるだけでなく、実際の仕事の中で試す機会をつくり、上司がフィードバックし、本人が振り返る。そして次の行動につなげる。そこまで設計して初めて、研修が現場の変化につながります。
EQ研修をやっても現場が変わらないときに起きていること
「EQ研修をやったのに現場が変わらない」という場合、本人の問題ではなく、企業側の設計に原因があることがあります。私がよく目にするのは、次の3つです。
一つ目は、EQを知識研修にしてしまうことです。EQの概念や理論を理解しても、それだけでは行動は変わりません。
二つ目は、「EQが高い人は感じのいい人」という捉え方をしてしまうことです。EQは、単に優しくすることでも、相手に合わせることでもありません。必要なときには厳しいことも伝えながら、関係性を壊さずに対話する力もEQです。
三つ目は、本人だけに変化を求めてしまうことです。管理職に「もっと部下の話を聴きましょう」と研修をしても、組織の中で「早く結論を出せ」「失敗するな」「上司の言うことに反論するな」というメッセージが出続けていたら、行動はなかなか変わりません。EQは個人の能力であると同時に、その能力を発揮できる環境があるかどうかにも大きく左右されます。
だから私は、EQ研修のゴールを「EQについて理解してもらうこと」には置きません。実際の仕事の中で人との関わり方が少し変わり、その結果として信頼関係やコミュニケーション、そして仕事の成果が変わること。そこまでつなげて初めて、EQを育成する意味があると考えています。
何から始めるか。まず自社にとってのグローバル人材を定義し直す
私がまずお勧めしたいのは、いきなりEQ研修を導入することではありません。最初に、自社にとって「グローバルで活躍できる人材とはどのような人なのか」を改めて考えていただきたいと思います。
「TOEIC○○点以上」「海外経験○年以上」といった条件だけではなく、実際の仕事の場面でどのような行動をしてほしいのかを具体的にしてみてください。例えば、次のような行動です。
- 異なる価値観を持つ相手の意見を、まず理解できる
- 自分と異なる意見が出ても、感情的にならずに対話できる
- 相手との信頼関係を築きながら、自分の意見もしっかり伝えられる
こうした行動レベルまで落とし込んでみると、自社が本当に育成すべき能力が見えてきます。そのうえで、現在の選抜基準や研修内容を見直してみるとよいと思います。「英語力は測っている。でも、英語を使って人と関係を築き、仕事を前に進める力は測っているだろうか」。これは、人事の皆さんにぜひ問いかけていただきたいポイントです。
EQは、英語力を成果につなげる土台になる
EQは、これからのグローバル人材育成において、英語力に取って代わるものではありません。むしろ、英語力をビジネス成果につなげるための重要な土台の一つだと考えています。
またEQは、単独で学ぶ特別な能力でもありません。英語力や異文化理解力、すなわち異文化を理解し適応する力であるCQと組み合わさることで、初めて大きな価値を発揮します。これからのグローバル人材育成では、英語力・EQ・CQを別々の能力として見るのではなく、実際のビジネス場面で統合して発揮できるかを見ることが重要です。
私たちは、グローバル人材育成を語学教育で終わらせるのではなく、人と人との間にある違いを理解し、信頼関係を築き、その違いを力に変えて成果につなげる人材を育てることだと考えています。まずは、現在の自社の選抜基準や育成施策を見ながら、ぜひ一度問い直してみてください。「私たちは、英語ができる人を育てたいのか。それとも、英語を使って世界で成果を生み出せる人を育てたいのか」。この問いから始めることが、これからのグローバル人材育成を考える第一歩になるのではないでしょうか。
よくある質問
EQとIQは何が違うのですか
EQは、自分と相手の感情を理解し、その理解をもとに、より良い関係性と成果につながる行動を選択する力です。知識や論理的な処理能力とは異なり、人との関わりの中で発揮される実践的な能力である点が大きな違いです。
EQが高い人とは、感じの良い人のことですか
違います。EQが高い人は、必要なときには異なる意見も伝えます。ただし、相手を尊重しながら、どう伝えれば建設的な対話になるのかを考えることができます。相手に合わせることと、相手を理解することは別のものです。
EQは研修で高められますか
高められます。ただし、知識を学ぶだけでは行動は変わりません。実践、フィードバック、内省、再実践のサイクルを仕事の中に組み込み、本人が試し、上司が具体的にフィードバックし、振り返る機会をつくることが必要です。
英語力とEQは、どちらを先に育てるべきですか
どちらか一方を先に、という考え方はお勧めしません。英語力は入口であり、EQはその英語を成果につなげる土台です。実際のビジネス場面で統合して発揮できるかという視点で、育成体系を設計することが重要です。
