AI時代のグローバルリーダーに求められる
リーダーシップ。
人にしか果たせない役割とは

リーダーシップをひと言で定義するなら、私は「人が自発的についていきたくなるように、方向性と意味づけを示し、行動を引き出す力」だと考えています。ポイントは「自発的に」という部分です。この定義は、AIが仕事の多くを担うようになっても変わりません。むしろ、変わらない部分だけがリーダーの仕事として残っていくと思っています。今はVUCAという言葉では言い表せないほど世の中が変化し、過去の正解がそのままでは通用しない時代です。そこにAIが加わり、知識や分析、資料作成といった、かつては優秀さの証明だった領域が、急速にコモディティ化しています。
だからこそ、これからのグローバルリーダーに問われるのは、「人としての役割」だと考えています。意味を与え、違いを束ね、一人ひとりの主体性を引き出す。この記事では、AI時代にリーダーの仕事から何が引かれ、何が残るのか、その残った役割を果たすためにどのような力と行動が必要なのか、そして企業はそれをどう育てるのかを、私自身の考えとしてお伝えします。
この記事で考えること
- AI時代に、リーダーの仕事から何が引かれるのか
- グローバルリーダーに残る「人としての役割」
- その役割を支えるのは、AIには持てない能力
- 役割は、日々の行動でしか示せない
- 人としての役割は、経験学習型の研修で育てられる
- AIに任せるほど、人としての役割が問われる
AI時代に、リーダーの仕事から何が引かれるのか
これまでリーダーの価値とされてきたもののかなりの部分は、実は情報量と処理能力でした。業界の知見を多く持っている、過去の事例を知っている、資料を素早くまとめられる。こうした能力は長らく「できる人」の条件でしたが、今やAIが短時間で、しかも複数の言語をまたいで提供してくれます。海外の市場情報を調べる、英文の資料を読み解く、提案のたたき台を作るといった作業は、もはやリーダーの差別化要因にはなりません。言語の壁さえ、技術が一定程度まで下げてくれる時代になりました。
その一方で、AIが代わりにやってくれないことがはっきりしてきました。AIは選択肢を示せますが、「私たちはなぜこれをやるのか」を決めることはできません。文章は書けますが、意見の合わない相手と信頼関係を築くことはできません。正解らしいものを提示しても、それを自分のこととして引き受ける人を作ることはできない。つまりAIは、答えを出す仕事は担えても、人を動かす仕事は担えないのです。ここを見誤ると、いくらAIを使いこなしても、組織は動きません。
もうひとつ、見落とされがちな変化があります。AIによって情報量の差が縮まると、メンバーの側も自分で調べ、自分で考えられるようになります。上司だけが答えを持っているという前提が崩れるのです。だから、上から答えを降ろすスタイルのリーダーシップは、これから弱くなっていきます。代わりに強くなるのは、一人ひとりが自分で判断し、動きたくなる状態をつくれるリーダーです。
グローバルリーダーに残る「人としての役割」
AIにできることを引いていったときに残るのは、大きく三つの役割だと思っています。意味を与えること、違いを束ねること、そして主体性を引き出すことです。どれも別々のスキルとして存在するものではなく、現場ではひとつの振る舞いとして現れます。
一つ目の「意味を与える」は、ビジョニングと呼んでいる力です。正解が見えない状況でも、「私たちはどこへ向かうのか」「なぜそれに取り組むのか」を示すことはできます。これはAIが代行できない領域です。何を大切にするのか、何をやらないのかという判断には、その組織の価値観が必要だからです。しかも、手順を細かく指示するのではなく、向かう先と意味を共有するからこそ、メンバーは自分で判断できるようになります。指示は的確だが「なぜそれをやるのか」を語らないリーダーの下では、タスクは回っても当事者意識は育ちません。AIが実行を担うほど、この差は大きくなります。
二つ目の「違いを束ねる」は、グローバルな現場で最も難しい役割です。会議などの場で、相手の感情、文化的背景、意思決定のプロセス、コミュニケーションのスタイル、こうした違いを理解しないまま、ただ言葉だけで自分の主張を通そうとすると、対立が生まれやすくなります。逆に、相手の意思決定の仕方を理解していれば、同じ提案でも伝え方を変えられます。ここで必要なのは、違いを知識として知っていることではなく、目の前の相手を理解しようとし続ける姿勢です。国や文化の一般論は、今やAIがいくらでも教えてくれます。しかし、この人がなぜこだわるのかを理解できるのは、その場にいる人間だけです。
三つ目の「主体性を引き出す」は、これから最も重要になる役割だと考えています。過去の正解が通用しない以上、誰かの指示を待って動く組織は、変化の速さに間に合いません。主体的に失敗を恐れずに前に進める人を、どれだけ多く生むことができるか。そしてその人が、周囲を巻き込めるか。リーダーの仕事は、自分が前に出て引っ張ることではなく、そういう人が育つ状況をつくることです。結果としてリーダーは、前に立たなくてもよくなります。
その役割を支えるのは、AIには持てない能力
この三つの役割を果たすために必要なのが、共感力、異文化理解力、インクルーシブマインドセットと多様性の受容、変化対応力、そして言語化力です。いずれも英語力とは別の能力であり、英語が流暢になっただけでは身につきません。そして、AIをどれだけ使いこなしても代行させられないものばかりです。
共感力は、相手の感情や置かれている状況を理解し、そのうえでどう接するかを選ぶ力です。ここで注意していただきたいのは、共感力は「相手に合わせる力」ではないということです。相手の感情を尊重することと、相手の言うことをすべて受け入れることは別です。必要なときには異なる意見も伝えながら、関係性を壊さずに対話できる。これは感じの良い人になるための能力ではなく、信頼関係を築き、成果を生み出すための実践的な能力です。異文化理解力も同じで、違いを知ることではなく、違いを前提に対話を設計できることに意味があります。
主体的に前に進め、周囲を巻き込もうとすれば、さまざまな価値観を持つ人々が集まることになります。その異なる価値観を尊重し、受け入れるマインドセットを持つこと。これは単なる寛容さではなく、違いを成果の源泉に変えるための実践的な姿勢です。発言しやすさや意思決定への参加の機会が一部の人に偏っていないかを、リーダーは常に見ている必要があります。変化対応力についても、完全な計画を作ってから動くという進め方はすでに成立しにくくなっています。小さく試し、確かめ、必要なら方向を変える。変化に振り回されないことではなく、変化を前提として自分の進め方を選べることだと考えています。
そして、AI時代にとりわけ価値が上がっているのが言語化力です。多様なメンバーが集まるほど、「言わなくてもわかる」は成立しなくなります。なぜそれをやるのか、何を大切にしているのか、どこまでは任せ、どこからは相談してほしいのか。これを言葉にできるかどうかで、メンバーの動き方は大きく変わります。これはAIに向かうときも同じです。自分が何を求めているのかを言語化できなければ、どんなに優れたAIも使いこなせません。自分の考えを、背景の違う相手にも届く言葉にしていく。これは訓練で伸びる能力です。
役割は、日々の行動でしか示せない
こうした役割や能力は、日々の行動として現れて初めて周囲に伝わります。国籍も専門性も違う人が集まる現場で、自然と人が集まってくる人には、いくつか共通した行動があります。情報を独占せず、頼まれる前に共有すること。会議で誰も言い出さない論点を、多少反発を招いても自分の言葉で提起すること。自分の担当範囲を一歩超えて、誰も拾わない問題を繰り返し拾うこと。自分の非を認めるのが早いこと。そして、成果が出たときに誰の貢献だったかをきちんと言葉にすることです。
これらは地味な行動に見えますが、どれも「この人と組むと、自分の努力がちゃんと報われる」という予測可能性を作っています。信頼とは、基本的にそこから生まれるものだと思います。逆に、自分の非を認めるのに時間がかかる人は、周囲から見て「安全に本音を言えない相手」になり、悪い情報が入ってこなくなります。これは変化の速い環境では致命的です。
ここでひとつ、日本の組織で語られるリーダー像について申し上げておきたいことがあります。カリスマ性で強く引っ張るリーダー像には、正直かなり違和感があります。強烈な個性で引っ張るタイプは、その人がいなくなった瞬間に組織が止まります。それは強いリーダーシップではなく、属人化の別名です。さらに、カリスマ性を才能として語ってしまうと、「自分にはカリスマがないから向いていない」と多くの有能な人が自分にブレーキをかけてしまいます。でも実際には、ここで挙げた行動はどれも才能ではなく習慣です。声が大きいことや押しが強いことより、地味な信頼の積み重ねの方が、よほど再現性が高く、誰でも今日から始められます。
人としての役割は、経験学習型の研修で育てられる
こうした力は育成できます。研修を行い、実践経験の場を与えることです。ただしその研修は、知識付与型ではなく、経験学習型で、自ら気づきを得るメソッドでなければなりません。両者の違いは、教室の中で完結するか、教室の外に出るかです。知識付与型は良いリーダーの枠組みを先に教え、その後に行動してもらう構造ですが、経験学習型は逆で、先に不確実な状況に放り込み、後から言語化させます。この順番の違いが決定的です。人は教えられたことより、自分で気づいたことの方を、はるかに強く行動に定着させるからです。知識を渡すだけなら、もはやAIの方が上手です。
具体的には、答えのない小さなプロジェクトを、正解を教えず、権限も与えずに期限付きで渡す。受講者は、命令ではなく説得や信頼構築でしか人を動かせない状況に置かれます。背景の異なる相手に協力を仰ぐという体験そのものが、最大の学習材料になります。そのうえで振り返りは、成果ではなく行動プロセスに絞ります。「誰にどう声をかけたか」「断られたときに何をしたか」「途中で何を変えたか」を本人の言葉で再現させ、上司や人事は評価ではなく質問をする。この問いかけの質が、経験を学びに変換する装置になりますし、自分の行動を言語化する練習にもなります。さらに複数人が同じような課題に別々のアプローチで取り組み、その違いを互いに共有すれば、行動の違いが結果の違いを生むことを、本人が自分のこととして納得できます。
ただし、研修だけでは行動は変わりません。能力を発揮できる環境が必要です。管理職に「もっと部下の話を聴きましょう」と伝えても、組織の中で「早く結論を出せ」「上司に反論するな」というメッセージが出続けていたら、人は動きません。主体的に前に進める人が評価されること。この環境があって初めて、育成した力が現場で使われます。
AIに任せるほど、人としての役割が問われる
VUCAどころではない、過去の正解が未来に活用できない時代です。この時代に重要なのは、主体的に失敗を恐れずに前に進めることです。そのときに、周囲を巻き込むこと。そうすれば、さまざまな価値観を持つ人々が集まることになります。その異なる価値観を尊重し、受け入れるマインドセットを持つこと。これが、AIがどれだけ進んでも人に残る役割であり、グローバルな環境で人と組織を動かすリーダーの条件だと考えています。
人事や経営に携わる方には、自社の育成施策を見ながら、一度問い直してみていただきたいと思います。私たちは、AIを使いこなせる人を育てたいのか。それとも、AIには果たせない役割を果たせる人を育てたいのか。前者はもはや前提であり、これからの差は後者にしかありません。こういった人材を育成する、社風づくりをすることが必要です。そのための一歩は、リーダー研修にあります。
よくある質問
AI時代に、リーダーの仕事はなくなりますか
なくなりませんが、中身は変わります。知識や分析、資料作成といった部分はAIが担うようになり、意味を与えること、違いを束ねること、主体性を引き出すことという、人にしか果たせない役割が残ります。
AI時代のグローバルリーダーに必要な能力は何ですか
共感力、異文化理解力、インクルーシブマインドセットと多様性の受容、変化対応力、言語化力、そしてビジョニングだと考えています。いずれも英語力とは別の能力であり、AIに代行させられないものばかりです。
リーダーシップにカリスマ性は必要ですか
必要ありません。カリスマ性で引っ張るタイプは、その人がいなくなった瞬間に組織が止まります。それは強いリーダーシップではなく属人化の別名です。本当に強い組織は、リーダーが休んでも回る組織です。
こうした力は研修で育てられますか
育成できます。ただし知識付与型ではなく、経験学習型で自ら気づきを得るメソッドとし、実践経験の場を与えることが必要です。あわせて、主体的に前に進める人が評価される環境をつくることが欠かせません。
